[携帯モード] [URL送信]
薬研


「戻ったぜー、大将…」

多少おぼつかない足取りでふらふらと部屋に入ってきた錬結帰りの薬研はどこか具合が悪そうで慌てて駆け寄ろうとしてものの、手で座っているようにと制されたので渋々ながら大人しく座布団の上に戻ることにする

「薬研?」

ふらつきながら私の膝に馬乗りになってきた薬研は呼吸を荒げながら、ことんとこっちの肩に額を載せて苦しげに熱い吐息を吐き出した

他の短刀の子たちならともかく彼がこんなふうに密着して甘えてくるなんてなかったから迷惑とかじゃないけど、ちょっと困惑していたり

普段なら真っ白な目元が薄らと紅に彩られて、耳元でこぼされる絶え絶えの呼吸は苦しげで
心配になって多少乱れた彼の髪を指で梳いていれば、肩にのせてきている額はそのままに首を傾ける薬研の前髪が色っぽくはらりと垂れる
その下から上目遣い気味にこっちに流された視線に、一瞬で射抜かれた

「なぁ、大将」

内緒話でもするみたいにひそめた低い声
でもそんな可愛いものじゃなくて、もっと艶を含んで獣の唸りのようにどこか危険さを滲ませていて

相手はあの薬研なのに、いつも大将って無邪気に笑ってくれて幼い外見なのに中身は兄貴分でそれでいて戦闘のときは誰よりも凛々しいいつも見ているはずの少年と同じ子なのに、目の前にいるのはまるで男の人、みたいな

そんなことをぼんやりと考えていたら、薬研は人の膝にまたがったまま愛用の手袋の指先部分を噛んで引き外していた
少年らしいまだ細さの残る骨格なのに少年らしからぬ真っ白な手、それと対をなすように伏せられた黒々とした睫毛の影から覗く薄ら開かれた半眼と、視線が絡んでしまう

…これ少年の放つ色気じゃないんじゃないかな

その仕草の色っぽさに見蕩れて、一瞬反応が遅れてしまった
伸ばされた彼の指先がおもむろに首に触れてなぞるようにラインを辿って鎖骨にたどり着いて、形を確かめるみたいに撫でられて
肌を這う違和感に、慌てて彼の白い手を止める

「なに、を」

「…体が、熱ぃんだ」

私の些細な抵抗なんて諌めるように掴んだ手を逆に握り返されて驚く間も無く、すり、と首元に彼が顔をすり寄せてきたものだから温度の高すぎる湿った吐息に首筋をくすぐられる感触に体が反射的に固まってしまった

おかしい!絶対おかしい! 普段なら絶対にこんなにくっついてこないし、そもそも薬研はこんなに体温高くなかったはずだし

首をかしげるようにしてこっちを向いた至近距離でかちあった彼の黒い瞳はどろりと潤みきって、熱情にうかされたその色に飲み込まれてしまいそうな錯覚

「大丈夫、なわけないよね」

「あぁ。頼む、収まるまで傍に…」

いさせてくれ、と続けられた言葉は耳元に直接吹き込まれて、
猫を思わせる仕草で再び頬に顔を寄せられ、ぺとりと押し当てられた擦りあわせられる高めの体温を宿した肌理細かな滑らかで熱い頬がすり寄せられるものだから、熱がこっちにまでうつされる
続けて唇が皮膚の薄い喉に触れられたのがダイレクトに伝わってきて、跳ねそうな体を抑えることはできても噛み殺せなかった悲鳴が小さくこぼれてしまう

「ひぁっ」

首筋に触れる熱すぎる吐息と体温、渇いた唇の感触にぞくりと背筋を走る感覚、近すぎる距離で彼から香る濃い薬草の匂いに唇を噛んできつく目を瞑る
擦れ合う互いの衣擦れの音すら近すぎて
畳の上に放り出したままの手に、彼の真っ白な手が重ねられてきゅっと優しく握られて抵抗する意思すら容易く溶かしていってしまった

触れ合う頬が首筋が握られた手が
すべてが熱くて近すぎて おかしく、なりそう

「…声、可愛いぜ」

熱を孕んだ低い声が囁く言葉に思わず目を見開いて、眼前の乱れた黒い髪の主を凝視してしまった
その隙にまた首筋に彼が顔をすり寄せてきたものだから、薬研の質の良さそうな服を握りしめて必死にこみあげる感覚をやり過ごそうとする

ただ膝に乗って首元に擦り寄られているだけなのに、どうしてこんなにやましいことしてるような気になるんだろう…!薬研はただ甘えてるだけなんだから平常心平常心…!!

「やげ、くすぐったい」

「たいしょう、もうすこし。な?」

「んっ、」

顎下をつつく乱れた黒髪といたわるような優しい低い声に促されて、否応なしに頷いてしまう
早すぎる鼓動はちっとも収まる気配すらなくて、むしろどんどん速くなって体温まで上がり始めるわで自分の体のはずなのにさっきからちっとも思う通りに動いてくれない

でも、いつも薬研には助けてもらってるしちょっと過度なくらいの甘え方だとしても今日くらいは許してあげよっか、なんて

鎖骨あたりを撫でる熱い息に首をすくめながらも、縋るかのように切なげな呟きに抵抗することなんてできなくて
腰にまわされた腕にこたえたくて、握られているだけだった手を握り返して彼の黒髪に頭を預けた


15.01.25





あきゅろす。
無料HPエムペ!